研究概要

■自動車コースの試験車両(RX-8)を紹介します

RX-8   機械学系の武田です。 私は自動車コースを主に担当しています。 今回は、自動車コースの試験車両の1台、“マツダRX-8”を紹介します。

 紹介の文章は、自動車コースの伊東和彦先生に書いてもらいました。 伊東先生は、自動車コースの非常勤講師を勤める傍ら、自動車評論家としてもご活躍されています。

RX-8
 現在はフリーランスの編集者・記者として、新型車やクラシックカーなどの記事や技術解説を書かれていますが、 もともとは、出版社の二玄社にお勤めでした。

 二玄社では、カーグラフィック(CG)という雑誌の別冊、“スーパーカーグラフィック(SCG)”の編集長をされていました。 その伊東先生に、雑誌の記事さながらに、ロードインプレッションを交えてRX-8を紹介して貰います。

■マツダRX-8を知る、走る、勉強に使う

 自動車コースには、自動車の排出ガスの成分を分析する装置や、馬力が測定できるシャシーダイナモメーター(台上試験機)を備えた、 「自動車工房」が備わっています。 この施設を使って、自動車を学ぶ学生の皆さんが実験をする教材として、マツダRX-8とアウディTTクーペの2台を使っています。

RX-8
  まず、なぜ、マツダRX-8を使っているのか、理由をお話しましょう。 RX-8は2012年6月に生産を終えたマツダのスポーツカーで、現在の路上では見かけることが少なくなってしまいました。

 その理由は、現在では生産されてないロータリーエンジンを搭載しているからです。

  ドイツの技術者が1950年代に発明したヴァンケルエンジン(ロータリーエンジン)は、ピストンを使う一般的なエンジンとはまったく新しい機構を持ち、 夢の内燃機関として世界的に大きな話題になりました。 これに注目したマツダ(当時の会社名は東洋工業)は1961年にドイツのNSU社から基本特許を取得し、その開発に乗り出したのです。

 先ほどヴァンケルエンジンといいましたが、これは発明したヴェンケル博士の名前です。 どうしても実現したかったヴェンケル博士は、世界中のたくさんの会社に特許を渡すことで、開発を進めて行こうと考えたようです。 マツダだけでなく日本の自動車メーカーも研究を始めました。 夢の技術といっても、それは理論を明らかにするための、実験用の小さなエンジンが完成しただけの段階で、実用化までには、多くの技術的な難問を乗り越えなければなりませんでした。

RX-8
  世界中の多くのメーカーの技術者たちが同じ時期に実用化の研究に没頭しNSUが1964年に市販車を完成しました。 続いて、マツダが1967年5月にロータリーエンジンを搭載したスポーツカーを発売しました。 ところが、開発に当たっていたその他の各社は、マツダほど完成度の高い製品を送り出すことはできず、次々に開発を諦め、あるいは生産化を断念していき、 ついにマツダだけが世界で唯一のロータリーエンジン生産会社として残ったのです。

 ロータリーエンジンは、軽量、小型であり、従来のピストンを使ったレシプロ式エンジンとは比較にならない、滑らかな回転特性を発揮することが特徴で、 特にスポーツカーに搭載されると、その魅力は際立ちました。

  さて、話を元に戻しましょう。 生産を終えたロータリーエンジンですが、けっして過去の技術となって歴史の中に埋もれてしまうわけではなさそうです。 マツダはその機構が水素を燃料とするエンジンに最適だと考え、低公害車の実証実験をおこなっていました。また、電気自動車の車載発電機用動力源として研究を続けているようです。

 ロータリーエンジンを使ったハイブリッド車の可能性もまったく否定できないともいえそうです。 近い将来、小型で軽いというロータリーエンジンの美点が発揮できる最良の方法が見つかったとき、復活する可能性があるでしょう。

RX-8
 それではRX-8を自動車工房から引き出して、ドライブに出掛けてみましょう。そういえば、RX-8が発売されたのは2003年春のことでしたが、私は発売当時に仕事で試乗したことがありました。 それ以来、何度か試乗しています。こういうと、齢がバレてしまいますが。さて、ここから先は、“雑誌の口調”で書かせていただきます。
 

■RX-8のショートインプレッション_大学周辺にて

RX-8
 初めてこのクルマを見た人は、リアにも2名分のシートが設けられていることに気付くだろう。 こうしたクーペのリアシートに座る時には、体を大きく折り曲げるなど、さながら“ヨガの姿勢”が強要されるものだが、RX-8は、こう見えても“観音開き”の4ドアで、 さらにセンターピラーがないので、後席への乗降はとても楽だ。

  キーを捻ると、長めのクランキングを経てエンジンが目覚めた。剛性感のあるシフトレバーで1速に入れ、1500rpmあたりで慎重にクラッチを離すと、エンジンの“胴震い”を感じた。

 ロータリーエンジンはその構造上、大きなマス(重量)を持つ2個のローターが回転するからだが、それはごく低回転域のことで、すぐさま滑らかにタコメーターの針が駆け上り、 クルマは鋭い加速体勢に入った。短いストロークで小気味よく決まるシフトレバーを操作するのは、このクルマに乗る楽しみのひとつである。

RX-8
 ロータリーエンジンの最大の美点は、この滑らかに軽々と回転を上げていくことだ。 今回の試乗では大学周辺の道路なので遠慮したが、私は過去の取材で8500rpmまで直線的に吹き上がることを確認している。

 高回転型エンジンには違いないが、ふだんの街乗りで多用する3000rpm以下の常用域でも充分にトルキーで、踏めば即座に加速するレスポンスの良さを味わうことができる。 前述したように2012年6月に生産を終えているが、現在でもこのスムーズな回転フィールには、今さらながら感動を覚える。

  エンジンの搭載位置はいわゆるフロントミドシップだ。 前後長が短い2ローターユニットを可能な限りキャビンに近づけ、さらに重心位置を低くしたパッケージングが功を奏し、ステアリングを切った瞬間の俊敏な回頭性は素晴らしい。 だからといって、サスペンションがガチガチに硬いわけでなく、乗り心地も良好だ。

  このRX-8は、もうすぐ距離計が17万キロに届くという“走り込んだクルマ”だ。 台上試験など過酷な実験に使われているので、エンジンやトランスミッションはもちろん、ボディにも負担がかかっているはずだ。 新車の頃に試乗した記憶を思い起こせば、確かにこのRX-8が疲労していることを感じるものの、現在でもそのメカニズムには古さを覚えることはなかった。

RX-8
 これからも、優れたスポーツカーのひとつの例として、また、ロータリーエンジンの存在を理解してもらう教材として、長く自動車工房に置き、若い学生諸君のために役立てていきたいと思う。 (伊東和彦)




[主要諸元] ■全長×全幅×全高:4435×1770×1340mm ■ホイールベース:2700mm ■ト レッド(前/後):1500/1505mm ■車両重量:1310kg ■乗車定員:4名 ■エンジン 型式:13B-MSP■総排気量:654cc×2 ■最高出力(ネット):250PS/8500rpm ■最大トルク(ネット):22.0kg-m/3000rpm ■変速機: 6MT

■ロータリーエンジンの特徴

RX-8  ロータリーエンジンが、一般的なレシプロエンジンと異なる点は、文字通りローターが回転するところです。 レシプロエンジンはピストンの往復直線運動をクランクによって回転運動に変換していますが、ロータリーエンジンはローターの回転運動をタイヤの回転につなげられます。 ですので、振動や騒音が小さくなります。

 また、レシプロエンジンとは違って、カムシャフトと吸排気バルブが不要ですので、構造がシンプルになってコンパクトになります。 さらに、4サイクルのレシプロエンジンは、クランクシャフトが2回転して1回の燃焼を得て動力を作りますが、ロータリーエンジンは1回転に1回の燃焼を得て動力を作ります。

 したがって、小さいエンジンですがハイパワーが得られるのです。その反面、燃費が悪いことから環境に悪いというイメージがありますが、 実は、水素の燃焼にはレシプロよりも優位性があって、環境に優しい水素ロータリーエンジンという未来も期待できます。 (武田克彦)



更新日2017/02/10

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