JKA補助事業の成果(ステップアップ研究)


補助事業番号:2021M-190
補助事業名 :2021年度金ナノ粒子の粒子径制御技術と粒度分布を最適化した屈折率検出用LSPRセンサの開発補助事業
補助事業者名:関東学院大学 理工学部理工学科機械学系 材料加工プロセス研究室 柳生裕聖


  1. 研究の概要
     本補助事業では金ナノ粒子をガラス基板上に固定した屈折率の検出が可能な高感度LSPRセンサの開発を最終目標とする。この目標を達成するために,前回の補助事業(28-106)において検討したマイクロ流体デバイスを用いた金ナノ粒子の粒子系制御技術の成果である流量調整による粒子径制御技術により,粒度分布の異なる金ナノ粒子の合成を検討する。さらに粒度分布の異なる金ナノ粒子を用いた屈折率検出用LSPRセンサを作製し,粒度分布とセンサ感度の関係を明らかにし,低金濃度で高感度なセンサを開発する。

  2. 研究の目的と背景
     局在表面プラズモン共鳴(LSPR)は,光学センサにおいて重要な役割を有している。金ナノ粒子は,吸光スペクトルの波長530nm付近にLSPRピークを有し,ピーク波長はナノ粒子の周囲の物質によって変化する。この吸収ピーク波長の変化は,金ナノ粒子をガラス基板上に固定した基板をセンサとして用いた溶液の屈折率を検出可能なLSPRセンサとして応用可能である。
     屈折率を検出可能な金ナノ粒子を用いたLSPRセンサについては,金ナノ粒子の平均粒子径がセンサの屈折率感度(nm/RIU)に与える影響についての報告がある。この報告では平均粒子径12nm〜48nmの金ナノ粒子を用いてLSPRセンサを作製し,センサ感度を測定したところ,平均粒子径39nmの金ナノ粒子を用いたLSPRセンサで最も高い屈折率感度を示すことが確認されている。さらにセンサに用いる金ナノ粒子の平均粒子径は,センサ感度に影響を与えることが明らかとなっている。また金ナノ粒子の粒子形状がLSPRセンサに与える影響が報告されており,球状金ナノ粒子,金ナノロッド,金ナノピラミッド,星形状金ナノ粒子(金ナノブランチ)を用いたLSPRセンサの屈折率感度を測定した報告がある。球状金ナノ粒子を用いた場合のセンサ感度(44nm/RIU)に対して,金ナノブランチを用いたセンサが高感度(703nm/RIU)を示すことが報告されている。このことにより,金ナノブランチのような鋭角を有する形状の金ナノ粒子を用いることにより屈折率感度が向上し,鋭角が鋭くなるにしたがって,屈折率感度も向上することが報告されている。以上の研究例のように,金ナノ粒子の粒子形状や,平均粒子径がセンサ感度に与える影響についての研究報告は存在するが,金ナノ粒子の粒度分布がセンサ感度に与える影響については明らかになっていない。金ナノ粒子の吸収ピーク形状はナノ粒子の粒度分布により変化し,粒子径の均一なナノ粒子は鋭利な吸収ピークを有するので,粒度分布の狭い金ナノ粒子を用いることにより,LSPRセンサの高感度化が可能になることが予想される。しかし,金ナノ粒子の粒度分布を高精度に制御することは困難なため,LSPRセンサに対する金ナノ粒子の粒度分布の影響は明らかにされていない。
     上記の課題に対して,我々は既にマイクロ流体デバイスを用いて流量を調整することにより,ナノスケールで金ナノ粒子の粒度分布を制御できる合成方法を報告している。本研究では,マイクロ流体デバイスを用いて合成した粒度分布の異なる金ナノ粒子をガラス基板上に固定したLSPRセンサを作製した。さらに溶液中におけるLSPRセンサの吸収ピーク波長と溶液の屈折率の関係から,LSPRセンサの屈折率感度を算出し,金ナノ粒子の粒度分布がLSPRセンサの感度に与える影響を明らかにする。


  3. 研究内容
    1. 設備の導入
       LSPRセンサの金ナノ粒子の粒子径を評価するためにX線回折装置を導入した。さらにLSPRセンサの評価では高精度に吸光度(透過光)を検出する必要があるため,ダブルビーム,ダブルモノクロメータ仕様の紫外可視光分光光度計を新しく導入しセンサを評価した。

    2. デバイスの作製
       マイクロブラスト加工と熱圧着法により,ガラス製マイクロ流体デバイスを作製した。本事業のデバイスはガラス基板としソーダライムガラス(スライドグラス)を使用し,前回の補助事業で検討した入口が2個のマイクロ流体デバイスを試作した。なお作製するデバイスの流路寸法は前回の補助事業と同じ寸法(流路幅は260μm,深さは70μm)とした。

    3. 合成実験
       合成実験ではマイクロ流体デバイスの2つの入口から金イオン水溶液(塩化金酸水溶液),還元剤(クエン酸ナトリウム)と保護材(タンニン酸)の混合水溶液を,それぞれシリンジポンプで注入し混合部で拡散混合により金イオンを還元した金ナノ粒子分散液を出口から得た。本補助事業では2つの入口の流量は同じ値とし,流量0.01〜0.1mL/minの範囲で合成実験を実施した。また金イオン水溶液の金濃度を調整することにより,金濃度が0.186mM(1x)と0.559mM(3x)の金ナノ粒子分散液を合成した。合成したナノ粒子は分光光度計で吸光スペクトル,透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子径を評価した。

    4. LSPRセンサの作製と評価
       LSPRセンサは,幅5mm,長さ75mmにカットしたアミノ基を装飾したスライドガラスを合成した金ナノ粒子分散液に72時間浸漬し,その後24時間室温で乾燥させることにより作製した。LSPRセンサは溶液を満たした石英セル(光路長10mm)に挿入した状態で,分光光度計に設置し,吸光度を測定した。さらに測定したスペクトルの波長500nm〜600nmの範囲におけるピーク波長を解析し,屈折率とピーク波長の関係よりセンサ感度(nm/RIU)を解析した。なお本研究では溶液(カッコ内は屈折率)はイオン交換水(1.333),エタノール(1.360),2-プロパノール(1.377)を使用した。
      流量0.05mL/minで合成した金濃度0.559mM(3x)の粒子径の均一な金ナノ粒子を用いて作成したLSPRセンサの屈折率感度は136nm/RIUを示し,粒子径を均一にすることにより,センサの高感度化が実現できることが明らかとなった。また本研究により,金ナノ粒子を用いたLSPRセンサを低コスト製造できる可能性があることが示された。

  4. 本研究が実社会にどう活かされるかー展望
     本研究により,金ナノ粒子を用いたLSPRセンサを低コスト製造できる可能性があることが示された。金属ナノ粒子はLSPRセンサ以外に触媒や抗原検査の標識などの材料として応用されている。ナノ粒子は粒子径により特性が変化するため,それぞれの用途に適した粒度分布を有する金属ナノ粒子が合成できる手法が重要となる。本研究の成果により,粒子径の均一な単分散ナノ粒子は金ナノ粒子の医療・バイオ分野への応用も期待できる。

  5. 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ
     本事業は,前回の補助事業(28-106)確立した金ナノ粒子の粒子径制御技術を用いて,マイクロ流体デバイスを用いて合成した金ナノ粒子をLSPRセンサへの応用を検討した研究である。今回の検討により,LSPRセンサの感度が金濃度や粒度分布に依存することが明らかとなったため,今後はナノ粒子やセンサのバラツキなどを含めて,さらに詳細な研究を進めることにより,本事業成果の実用化が期待できる。

  6. 本研究にかかわる知財・発表論文等

【発表論文】

【学会発表】


 8. 事業内容についての問い合わせ先
  所属機関名: 関東学院大学理工学部理工学科機械学系材料加工プロセス研究室
  住   所: 〒236-8501
  神奈川県横浜市金沢区六浦東1-50-1
  代表者: 教授 柳生裕聖(ヤギュウヒロマサ)
  E-mail: yagyu@kanto-gakuin.ac.jp



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